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未来を創るGXとSX:
中小製造業の新たな挑戦

2025年4月9日

中小製造業は、持続可能な未来を築くための鍵となる存在です。環境問題が深刻化する中、グリーン・トランスフォーメーション(GX)とサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)は、企業が持続可能な成長を実現するための重要な戦略となっています。本コラムでは、GXとSXの具体的な取り組みや成功事例を紹介し、経営者が直面する課題とその解決策を探ります。

はじめに

日本の製造業が何故、「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」と「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」を重要な戦略として捉えなければならないのか?それは、環境問題の深刻化に伴い、CO2排出削減が急務となっているからです。製造業はエネルギー消費が多く、CO2排出量も多いため、GXの推進は地球温暖化対策に直結します。また、国際的な環境規制の強化に対応するためにも、GXは避けて通れない課題です。

一方、SXで定義されている、企業の持続可能な成長を支えるためのESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)に基づいた経営は、企業価値の向上や投資家からの評価向上に寄与します。更に、サプライチェーンの強靭化やリスク管理の観点からも、SXの取り組みは不可欠です。
これらの取り組みは、企業の競争力を高め、長期的な成長を実現するための鍵となります。日本の製造業がGX・SXに積極的に取り組むことで、持続可能な未来を築くことが期待されます。

GX・SXの概略

改めてGX・SXの概略をご紹介します。
「GX」は、「グリーン・トランスフォーメーション」の略で、化石燃料に依存せず、クリーンなエネルギーを活用するための変革やその実現に向けた活動を指します。具体的には、太陽光や風力、水素などの再生可能エネルギーを利用し、二酸化炭素(CO2)の排出を削減する取り組みです。日本は、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを目指しており、GXはその重要な役割を果たしています。

「SX」は、「サステナビリティ・トランスフォーメーション」の略で、企業が持続可能性を重視した経営方針に転換することを指します。これは、企業の経済的な持続可能性(稼ぐ力)と社会的な持続可能性(環境や社会への配慮)を同期させることを目指します。具体的には、ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)に基づいた経営戦略を採用し、長期的な企業価値の向上を図る取り組みです。

これらのトランスフォーメーションは、企業が持続可能な成長を遂げるために重要な要素と言われています。

GX・SXの政府の指針

経済産業省は、「GX実現に向けた基本方針」を策定し、脱炭素化、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現するための具体的な取り組みを推進しています。この方針には、省エネや再生可能エネルギーの導入、GX経済移行債の活用などが含まれています。
又、中小企業庁も、2024年版「小規模企業白書」において、中小企業・小規模事業者のGXの取り組み状況や課題について詳しく分析しています。この白書では、脱炭素化の重要性を理解し、具体的な取り組みを進めるための段階的なアプローチが紹介されています。

出典:

中小製造業におけるGX・SXを推進する際の課題

中小製造業が、GXとSXを推進する際に直面する課題をご紹介します。

GXの課題

GXの課題には技術的課題・経済的課題・社会的課題の3つがあります。

技術的課題

  • 新技術の導入
    GXを推進するためには、省エネルギー技術や再生可能エネルギーの導入が必要ですが、これには高度な技術が求められます。中小企業は技術力やリソースが限られているため、新技術の導入が難しい場合があります。
  • 既存設備の改良
    これまで使用してきた生産設備をGXに対応した仕様に合わせるために、改良(改修)が必要となることがあります。

経済的課題

  • 初期投資のコスト
    GXの取り組みには、初期投資が必要です。中小企業は資金力が限られているため、必要な投資を行うことが難しい場合があります。

社会的課題

  • 従業員の意識改革
    GXを推進するためには、全従業員の意識改革が必要です。しかし、従業員の理解と協力を得ることは地道に啓蒙することが必要です。
  • 地域社会との連携
    工場(事業所)所在地の周辺地域の理解が必要ですが、前述同様、地道な説明が必要となる場合があります。

SXの課題

SXの課題には「投資家との相互理解」「人的および時間的コスト」「ガバナンスの整備」の3つがあります。

投資家との相互理解

  • 短期的な利益とのバランス
    SXは、中長期的な取り組みであり、短期的な利益に結びつかない傾向がみられます。そのため、投資家の理解を得ることが難しく、積極的な施策を打ち出しにくいという課題があります。

人的および時間的コスト

  • 全社的な取り組みの必要性
    SXを実現するためには、企業全体での取り組みが必要です。これには多くの人的および時間的なコストがかかります。
  • 人材の確保
    SXを推進するための専門知識を持った人材の確保が難しい場合があります。

ガバナンスの整備

  • 透明性の確保
    企業の意思決定プロセスや業績報告において、透明性を確保することが求められます。
  • コンプライアンスの強化
    法規制や業界標準に従った運営を徹底することが必要です。特に環境規制や労働基準に対する遵守が求められます。
  • リスク管理の徹底
    経営リスクや環境リスクを適切に評価し、管理する体制を整えることが重要です。

これらの課題を克服するためには、政府や自治体の支援を活用し、企業間の連携を強化することが重要です。また、従業員や地域社会の理解と協力を得るためのコミュニケーションも欠かせません。

GXとSXを推進するためのステップ

中小製造業の経営者として、GXとSXを導入するためのステップを以下にまとめました。
まずはGXです。
前述の通り、日本は「2050年までにカーボンニュートラルを達成し、持続可能なエネルギー利用を実現すること」をゴールとしています。

導入ステップ

  • 現状のCO2排出量・エネルギー使用量を把握。
  • 短期・中期・長期のCO2排出量・エネルギー使用量の削減目標を設定。
  • その削減目標を達成する為の具体的な実行計画(手段・方法)を策定。
  • 計画に基づいて、削減計画を実行。
    • 設備の更新や運用の改善も含まれます。
  • 定期的に削減状況を評価し、必要に応じて計画を見直し。
  • 国や自治体の補助金や支援制度を活用。

次に、SXを見ていきましょう。
SXは、「ESGやSDGsに基づいた経営を実現し、企業価値の向上と長期的な持続可能性を確保すること」をゴールとしています。

導入ステップ

  • 自社の持続可能性を評価し、改善点を特定。ESG(環境・社会・ガバナンス)の観点からも評価。
  • 持続可能な社会を実現するための長期的なビジョンを設定。自社の存在意義や重要課題(マテリアリティ)を明確にする。
  • ビジョンを実現するための具体的な戦略を策定。
    • サプライチェーン全体の取り組みやステークホルダーとの対話も含む
  • 進捗を測るためのKPI(重要業績評価指標)を設定。ガバナンス体制を整備。
  • 統合的な報告書を作成し、ステークホルダーに対し透明性のある情報提供を実施。

GXとSXの両方を取り入れることで、中小製造業はエネルギー効率の向上や廃棄物の削減を実現し、コスト削減に大きな期待がもてます。さらに、環境に配慮した製品やサービスを展開することで、顧客の期待に応え、競争優位を確立することが可能です。このように、持続可能な取り組みは、企業の経済的利益だけでなく、顧客との信頼関係を深める重要な要素となります。環境への配慮が企業の成長を促進し、未来のビジネスチャンスを広げる鍵となるでしょう。

出典:

政府の支援制度

GX推進機構、経済産業省、中小企業庁の3つの機関は、さまざまな支援制度を提供しています。
これらを活用することで、企業はGX・SXの取り組みを推進し、持続可能な成長を実現することができます。以下に、それぞれの機関が提供する主な支援内容をご紹介します。

GX推進機構

  • 金融支援:債務保証や出資を通じて、GX投資に取り組む企業を支援。
  • 化石燃料賦課金の徴収:化石燃料に由来する二酸化炭素の量に応じた賦課金を導入及び徴収。
  • 排出量取引制度の運営:排出枠の割当てや入札を実施し、GXに向けたインセンティブを高める。

経済産業省の支援制度

  • GX経済移行債:GX投資を促進するための債券を発行し、資金調達を支援。
  • 成長志向型カーボンプライシング:カーボンプライシングを導入し、企業の脱炭素化を促進。

中小企業庁の支援制度

  • 補助金・助成金:GX・SXに関連する取り組みに対する補助金や助成金を提供し、初期投資の負担を軽減。
  • 技術支援:GX・SXに関連する技術の導入や改善を支援するための技術支援。

モノづくりのみなさんに耳寄りな情報

設計者である筆者が、長年愛用している設計ツールの一つとして、SOLIDWORKSという3DCADがあります。名前を聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか?このツールでも、製品の設計段階でサステナビリティを実践することができます。以下、それを活用した時のメリットをまとめました。

  • 設計の段階での環境配慮
    • ライフサイクルアセスメント(LCA)
      設計プロセスにLCAを統合することで、材料・製造工程・使用場所などの決定が環境に与える影響を評価できます。これにより、環境負荷を最小限に抑えるための最適な選択を行うことができます。
    • リアルタイムフィードバック
      設計の環境影響をリアルタイムで評価し、ダッシュボードに表示します。これにより、設計者は、環境影響を常に把握しながら設計を進めることができます。
  • コスト削減と効率化
    • 最適な材料と製造方法の選択
      材料や製造方法の評価比較が容易になり、最適な選択を行うことでコスト削減と効率化が図れます。
    • エネルギー消費の削減
      設計のライフサイクル全体を通じてエネルギー消費を評価し、削減することでコストを抑えることができます。
  • 競争力の向上
    • 環境に配慮した設計のアピール
      環境に配慮した設計を行っていることをアピールすることで、製品の市場価値を高め、競争力を向上させることができます。
    • ブランド価値の向上
      サステナビリティ設計を実践することで、企業のブランド価値を向上させ、顧客からの信頼を得ることができます。
  • 法規制への対応
    • 環境規制の遵守
      環境規制に対応した設計を行うことで、法的なリスクを回避し、コンプライアンスを確保することができます。
  • 社会的責任の遂行
    • 企業の社会的責任(CSR)
      サステナビリティ設計を通じて、企業の社会的責任を遂行し、持続可能な社会の実現に貢献することができます。

これらのメリットを活用することで、製造業の設計者は環境に配慮した持続可能な製品設計を実現し、企業の競争力を高めることができます。

まとめ

ここまで、GX・SXは環境負荷を軽減し、持続可能な成長を実現するための重要な戦略と述べてきました。中小製造業がこれらの取り組みを推進する際には、さまざまな要素に配慮する必要があり、従業員の意識改革や地域社会との連携も重要なポイントとなります。
これらに対応するためには、政府や自治体の支援を活用することが有効的ですが、その中で、IT導入補助金2025は、中小企業が新技術を導入しやすくするための大きな助けとなります。弊社は支援事業者として高い採択率を誇っており、お客さまのGX・SX推進を全力で支援いたします。
さらに今回ご紹介したSOLIDWORKSも対象ツールの一つです。このようなツールを活用することで、設計段階から環境に配慮したモノづくりを実践し、持続可能な未来を築くための重要な役割を果たすことができます。
未来を見据えた新たな挑戦に取り組むことで、次世代のモノづくりを共に創造していきましょう。

著者プロフィール

キヤノンシステムアンドサポート株式会社
業種ソリューション推進部 製造ソリューション推進課
貞本 幸宏

製造ソリューション推進課の業務内容
「製造業の進化を支援しよう!」を合言葉に、日本の製造業のみなさんに寄り添い、"モーションセンサーによる作業の可視化サービス”をはじめとするさまざまなソリューションをもって進化のお手伝いをいたします。

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